高齢化が進む中、いま介護職に対するケアが一層求められています。
職業としての需要が高まる一方で、業務の過酷さなどから人材不足が大きな課題となっているのです。
現場仕事が大半となる介護職ですが、スタッフが対面でサービスを行うことが当たり前でもあったこの業界において、近年注目を集めているオンラインを絡めたサービス提供はどのような展開をみせているのでしょう。
本記事では、介護業界における「オンライン接客」「遠隔接客」の現在について実例も交えながらご紹介していきます。
オンライン接客と遠隔接客は違う?
オンライン接客と遠隔接客には、一般に広く知られている正式な定義はありません。
オンライン接客・遠隔接客・Web接客など、いくつかの似た言葉が存在していますが、
本記事では、
・オンライン接客を「接客するスタッフまたは接客を受ける顧客のどちらかがリモートの状態」の接客
・遠隔接客を「接客するスタッフがリモートで接客を受ける顧客が店舗にいる状態」の接客
・Web接客を「接客するスタッフがリモートか店舗にいる状態で接客を受ける顧客がリモートの状況」の接客
と定義し、このうち特に遠隔接客について焦点を絞りご紹介していきます。
前提として、Web接客や遠隔接客は直接的に顧客との接触ができないため、リモートの状態でもどれだけ”自然なコミュニケーションが取れるのか”が重要になってきます。
Web接客は困った利用者に対してのQA形式の「案内」に終始しがちなのに対して、遠隔接客では来訪されたお客様に対しての声掛けも前提として「接客」への専念意識が強い点が特徴です。
介護業界においてオンライン接客の活用は進んでいる?
前述のWeb接客と遠隔接客を混同してしまうと、オンラインサービスを始めたいと考えた時に具体的な構想は浮かびにくいでしょう。なぜならこの2つが全く違う性質を持つからです。
遠隔接客では、興味を持たなくても必要性を感じ施設を訪れた利用者に対し、スタッフが遠隔でコミュニケーションをとることができます。もしここで要望の聞き出しが実施できれば、利用者の求めるサービス提供へ円滑につなげることができます。
一方、Web接客では、初めにネット上での利用者の自発的な行動が必要となります。言い換えれば、インターネットを用いてアクセスしてきてくれないことにはサービスが始められません。
広告やプロモーションによる誘導が叶えば来訪してもらえるかもしれませんが、介護サービスについて知りたい人に対して的確な広告を打つことは決して簡単なことではありません。
また介護業界の特徴として、介護を求める人は高齢であり要介護者の近くにも若い世代が少ないことが挙げられることを考えると、サービスの導入検討に際してはその手段がどこまで有効なのかについての検討が重要になるでしょう。
介護業界の事例を紹介
事例紹介の前に、まず介護業界におけるオンライン接客の導入目的についてご説明します。
たとえば、以下のようなものが挙げられます。
- コロナ感染リスク低減
- 現場負担の低減
- 遠隔地からの利用者介護の実現
- ご家族の支援体制の構築
コロナ禍では介護施設を閉めざるを得ない状況も発生しました。施設の特性上、感染者が出るとクラスター感染が引き起こされやすいという懸念もあるため、初めに注目された理由の大部分は感染リスクの低減でしょう。
それ以外にも、オンラインで介護ができるようになれば業務的な負担は減る可能性がありますし、デイサービスで施設に通うのではなく自宅からビデオ通話などの形で状態を確認できれば時間や移動コストの削減にもつながります。
また、ご家族が自宅から介護に参加できるようなサービスの提供にも利用できることを考えると、支援体制の構築にも役立つ側面もあります。
株式会社Rehab for JAPANの事例
たとえば、株式会社Rehab for JAPANは、介護分野に関してのDX(デジタルトランスフォーメーション)に取り組んでおり、同社が推進する「リハブオンラインプロジェクト」では介護のオンライン化に向けた実証実験が繰り返されています。
2021年3月に行われた実験では、オンライン体操の有効性を確認しました。これは遠隔地にいる利用者や施設に居る利用者をビデオ会議システムによって繋ぎ、担当職員による体操デモンストレーションを行う取り組みで、映像を見ながら利用者たちに体操をしてもらうことで利用者の健康状態の向上を図ることを目的とした事例です。
引用:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000031.000027102.html
ここでは実験に参加したうちの75%の事業者がこれを用いることで利用者の健康維持に効果的であると回答しており、事業者・利用者共に高い満足度が得られたようです。
一方で、課題もあります。
一つは職員のサービスの安定性と対応コストの面。
当然オンラインサービスを行うのにも人手を割かなければいけませんが、オンラインサービスであるので、トラブルが起こった場合には職員が時間をかけて解決する必要も出てきます。そのため、サービスの安定性とトラブル時にも安心できる体制は重要な検討材料となります。
また、もう一つは、導入目的に対する費用の面。
このオンラインサービスを「有料でもいいから導入したい」と答えた事業者は半分以下の44%に留まりました。導入目的に対してシステムの月額利用料が高すぎる場合に、それが高い壁となってしまうのです。
株式会社東急イーライフデザインの事例
株式会社東急イーライフデザインが運営するシニア住宅では、「百貨店ならではの上質な商品を住宅内でも購入したい」「気軽に買い物の楽しさを味わいたい」という入居者の声に応え、住宅内の多目的ホールと東急百貨店 本店のコンシェルジュサロンをオンラインでつなぎ、コンシェルジュの目利き力を生かした上質な商品を提案する取り組みを試験的に行っています。
これは、事前のヒアリングを踏まえて入居者のライフスタイルやトレンド、季節感を加味しコンシェルジュが本店内からセレクトした商品を提案 コンシェルジュが使い方や着こなし方などを丁寧に説明するものです。
臨場感のある大型ディスプレイ(55インチ)を使用し、サービスとしてはソニーのテレプレゼンスシステム「窓」を試験的に利用しています。
引用:https://www.atpress.ne.jp/news/289224
介護業界における「オンライン接客」の現在
介護業界において、介護業界で働きたい人に向けたオンライン研修制度などは充実してきているようですが、有効なオンライン接客の仕組みはまだ完成したとは言えないようです。
・身体が十分に機能しない方がいらした場合などにオンラインでのサポートは難しくなること、
・ネットの知識があまりなかったりタブレットなどの操作に苦手意識を持っているのではという懸念
も障害の一つとなっているようですので、オンライン接客、特に遠隔接客をご検討されるとすればまず対象になるのは来訪された利用者のご家族となってきそうです。利用者の家族であれば知識面の不安も減り、柔軟な対応ができる可能性も高まるのではないでしょうか。
来訪者へ施設情報やその他のご案内を遠隔接客の形で”可能な限り効率的に”行い、サービス提供につなげられる新たな運用体制を構築するなど、介護業界単体ではなく他の業界企業ともうまく連携しながら最適解を探していく動きが今後必要となりそうです。
加えて、そうした新たな動きにも人員を割き体制まで組む必要がある以上、導入目的の整理~導入後もサポートできる体制を持っているかを重視した連携先のご検討をおすすめします。
弊社では、「体験を損なわない設計を重視した」導入に関して、広くご相談をお受けしております。
自社での導入イメージをより具体的に持ちたいと感じられた方は、ぜひお気軽に問い合わせください。